街を走るキャンピングカーを見ればすぐ、車種・ビルダー・特徴がわかる。電気系統に詳しく、配線の仕上げはお手の物。内装の美しさはもちろん、素材のよさを活かしながら丁寧に施工する――
今回お話を伺ったのは、自身もバンに乗り、バンをつくることを生業にしている向田涼哉さんです。
幼いころから手先が器用だった彼は今、CarstayのバンライフガレージであるMobi Lab.(モビラボ)で、キャンピングカーのリノベーションやオリジナルブランドを開発しています。
自分の心地よい空間を探しながら、やるべきこととやりたいことをかけ合わせる涼哉さん。その人生と、これからのMobi Lab.についてお聞きしました。
幼稚園から高校まではサッカー少年でした。アパレルブランドや都会への憧れがあり、大学では地元の広島を出て、大阪でファッション系の流通とブランドマーケティングを学んでいました。
ただ、周りと比較するとアパレルやファッションにはそんなに関心がないのかもしれないと気づき、就職活動は迷走していたように思います。
そんなときに、オーストラリア留学から帰ってきた友人の話を聞く機会がありました。
昔から海外のファッションスタイルや音楽が好きで海外への興味はあったのですが、友人の話を聞いて刺激を受け、自分も行ってみたいと思いました。大学4年生の秋のことです。
就職はせず海外に行く。これを家族に伝えたとき、突然だったのもあり母は泣いていました。
でも、行くと決めたからにはやり切ろうと思って、卒業後すぐにワーキングホリデーでオーストラリアに旅立ちました。
初めての海外ということもあり、慣習や環境に戸惑うことはありました。でも、自分の世間知らずを知るのにいい機会だなと思い、いろんな場所に住んで経験を積みました。
価値観が大きく変わったのは、バイロンベイに足を踏み入れたときです。
バイロンベイは、オーストラリアの東部・ニューサウスウェールズ州にある街で、地元の人たちからはヒッピーの聖地として知られています。
訪れたきっかけは友人の誘いでしたが、この街の自然体な雰囲気に一瞬で魅せられました。残り半年はここで過ごそうと決めて、Top Shop Byron Bayという、丘にあるカフェで働くことにしました。
また、街はサーフタウンということもあり、サーフィンをするかどうかが日常会話に出てきます。
それもあって、やってみたいなと思っていたサーフィンを始めました。同じシェアハウスに住む人たち全員がサーファーだったので、家ではよくサーフィンの話をして技術を教わっていましたね。
この街のカルチャーを自分の体に染み込ませたいと思いながら過ごすうちに、都会への憧れや、ハイブランドが好きという気持ちはなくなりました。
華美に物をまとわずに、その人らしさが出ているのが美しいなと。
「何が本物のおしゃれなのか」に気づいたんです。
都会よりも、田舎の自然がいい。必要以上に物はいらない。この考え方になってから、バンライフにも興味をもつようになりました。
はい。帰国後、大阪・梅田で開催されていたアウトドアフェスで見たRIW(リュウ)がかっこよくて、とても気に入りました。きちんと作りこまれているのがいいなと思ったんです。
このクルマを製作していたのが、老舗のキャンピングカービルダー、ANNEXでした。
そのときは話しかけられなかったんですが、後日、営業担当者の方にメッセージを送って直営店でお会いした際、展示会で見たクルマに惚れ込んだことを話したところ、ご縁をいただき入社することになりました。
その後、営業担当の方や工場長を始め、社内の方々に「クルマとは何か」を教わることになります。
勤務先の直営店舗ではANNEXのブランドを始めとしたさまざまな車両を売っていたほか、カスタムオプションやメンテナンスの相談を受けていました。
新車販売をする傍らで先述のRIWの製作もしていたので、そこでクルマの製作技術を学びましたね。
入社して1年後にはRIWの製造担当になりました。そこから1年かけて、マツダ・ボンゴブローニイバンをベースにした、サーフ版のレイアウトをつくったんですが、試行錯誤したことはよく覚えています。
キャンピングカーを製品としてつくるのって、DIYとは全然違うんですよね。
量産されている部品を使っているか、安全性は担保できているか、長持ちする構造かなど、多くの制約があります。また、コンセプトやターゲット層のニーズに沿って設計しつつ、職人ならではの工夫をしたりなど。
時間はかかりましたが、こだわりぬいた楽しいクルマを製作することができました。
今はもうRIWの新規販売は終わってしまいましたが、僕にとってはとても思い入れのあるブランドですし、今でも「おしゃれなのは当たり前」「使う人にとって、本当に機能的なものを」というコンセプトは大事に思っています。
あるとき、キャンピングカーのシェアリング事業を展開しているCarstayという会社があると知りました。
調べていくうちに、モビリティの未来を見据えたキャンピングカービジネスをしていることに興味をもち、問い合わせフォームから連絡をして、Carstay代表の宮下に会いに行きました。
そこで、当時はまだ構想中だったMobi Lab.についての話を聞いたんです。
「日本のバンライフの拠点になる場所をつくり、いろんな人たちが気軽に立ち寄り、クルマを楽しめる」
話を聞いて、ぜひこの構想に乗りたいと思い、入社を決めました。
入社して1年ほどはCS(Customer Success)担当として、Carstayの問い合わせ対応や、カーシェア・車中泊スポット利用の方々のサポートをしていましたが、その後、Mobi Lab.事業責任者となり、昨年2022年10月に念願のMobi Lab.が横浜にオープンしました。
現在は、バンライフ車両のDIYができるレンタルスペースやカスタム・修理の相談、キャンピングカー見学やレンタルを受け付けています。
今年5月にはキャンピングカーのリノベーションブランド「SAny.(サニー)」を発表し、幅広いメディアの方から取材やお問い合わせをいただきました。
モデル車両のBrunswick(ブランズウィック)は、レンタカーとしての利用も増えてきたほか、リノベーションの相談も少しずついただくようになってきましたね。
Mobi Lab.は、日本のバンライフカルチャーの中心となる場所を目指していて、今も現場ではいくつものプロジェクトが動いています。
どのプロジェクトも、僕一人だけでできるものではないので、Mobi Lab.のメンバーと一緒に日々励んでいます。
周りの人たちに自分と同じ気持ちをもってもらうには、まず自らが熱量をもつこと。信念と自信をもって、それを周りにも伝えていくことが必要なんだなと感じています。
Mobi Lab.はクルマをつくるために始めた事業なので、これからもここでつくるオリジナルブランドを大きくしていきたいですね。
市場にインパクトを与えるようなことができればと思っているので、ぜひ期待していてください。
僕自身の話をすると、これからもサーフィンはずっと続けたいと思っています。クルマに乗って、好きなところに行って。
今の愛車は1994年式の100系ハイエース、アム・クラフトのユーロラインです。
このクルマにサーフボードを積んで、サーフスポットを巡っていたいですね。
サーフィンのほかには、クルマいじりと、スケボーと、音楽を聴くこと。あとは時々、サッカー観戦ができたら幸せです。
バイロンベイの魅力を話す涼哉さんの表情はとても生き生きしていました。ひたむきに仕事をしながら、心の豊かさとは何かを考える涼哉さん。お話の中から、彼が大切にする考え方を教えてもらったように思います。
サーフィンとクルマは、これまでの価値観を創り出してきた大切な要素。これからも、涼哉さんのやさしくてかっこいい世界を見せてもらうのが楽しみです。
広島県出身。大学卒業後にオーストラリアへワーキングホリデー留学をし、ヒッピー文化やサーフィンに魅了される。帰国後はキャンピングカービルダーANNEXにてRIW(リュウ)の開発・製造を担当し、2021年Carstayに入社。現在はMobi Lab.事業の責任者として、リノベーションブランド「SAny.(サニー)」を始め、キャンピングカー製作の新事業に邁進中。